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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1353号 判決 1989年2月27日

主文

原判決中控訴人の離婚請求を棄却した部分を取り消す。

控訴人と被控訴人とを離婚する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分しその一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

控訴人は、「(一)原判決を取り消す。(二)控訴人と被控訴人とを離婚する。(三)被控訴人は控訴人に対し金五〇〇万円を支払え。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに(三)項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、原判決事実摘示(ただし、原判決書二枚目裏一行目及び同三枚目裏九行目中「学園」を「学院」に改める。)並びに当審における記録中の証拠目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する本訴請求のうち離婚請求は理由があるが、慰謝料請求は理由がないものと判断するものであり、その理由は、次につけ加えるほか、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決書六枚目裏三行目中「一ないし三」の下に、「(同号証の三の官署作成部分はその方式及び趣旨により真正な公文書と推定する。)」を、同行中「第七」の下に「号証(第六号証の一、二、第七号証は原本の存在とも)」を、同四行目中「乙」の下に「第一号証(原本の存在とも)」を、同七行目中「れる」の下に「甲第三号証、」を、同行中「乙第五号証、」の下に「第六号証の一の二、同号証の二の二、」を加え、同行中「原告」から同八行目中「結果」までを「原審及び当審における控訴人及び被控訴人の各本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く。)」に改める。

2  同六枚目裏一〇行目中「附属医学」を「医学部附属」に、同七枚目表九行目中「園」を「院」に、同裏二行目中「手伝って」を「手伝い診療報酬の管理を任せられて」に改め、同三行目中「原告」から同四行目中「もらって」までを削り、同五行目中「原告の」下に「暗黙の」を加え、同七行目中「続けていたが」を「続けていた。控訴人は被控訴人に対し家事が疎かになると注意したこともあったが、被控訴人は東京中心の生活を変えることなく」に改め、同九行目中「行き詰り」の下に「控訴人の保険診療報酬を使い果たしたうえ」を、同一〇行目中「原告が」の下に「金融機関から融資を受けて」を、同行中「なった。」の下に「控訴人は現在も金融機関に対し右融資金の返済を続けている。なお、被控訴人は、右事業に従事していたころ、軽井沢の原野と八丈島の山林を被控訴人名義で購入し現在も所有している。そして、被控訴人は、その後も控訴人のもとへ戻って落着くことなく東京で単身生活を続けてきた。」を、同末行中「以降、」の下に「被控訴人が不在勝ちであったり、被控訴人との別居生活を続けているうち」を、同八枚目表二行目中「同五五年春ころ、」の下に「控訴人が校医をしていた中学校の教諭であった」を、同四行目中「儲け」の下に「、同月二〇日認知し」を、同行中「マンション」の下に「と自己名義で購入した東京都港区三田マンション」を加える。

3  同八枚目表七行目中「6」の下に「控訴人と乙野良子との同棲及び夏子の出生の事実は、被控訴人の知るところとなり、被控訴人は、その代理人の弁護士を通じて控訴人に対し夫婦の扶養及び財産関係についての覚書の作成を求めた。控訴人は、不本意であったが、事態を荒立たせたくなかったためこれに応じ、」を、同九枚目表一行目中「建物」の下に「(鉄筋コンクリート造陸屋根二階建診療所・居宅一棟一階二九四・四九平方メートル、二階一四一・四一平方メートル)」を、同行中「敷地」の下に「(宅地三筆面積合計一六九九・一六平方メートル)」を加える。

4  同九枚目表六行目の次に行をかえて「8 控訴人は、昭和六〇年九月ころ東京家庭裁判所に被控訴人との離婚を求める調停の申立てをしたが不成立に終ったので、昭和六一年四月五日本訴を提起した。控訴人は、被控訴人に対し昭和六〇年一二月分までの生活費(婚姻費用)を送金して支払っていたが、昭和六一年一月から二年間生活費の支払いをしなかった。その後、控訴人は昭和六三年一月から再び被控訴人に対し一か月二〇万円宛の生活費を送金している。9 控訴人は、当審における和解期日において被控訴人に対する離婚給付として、被控訴人から甲野医院の建物と敷地の持分二分の一の譲渡を受けるのと引換えに、その譲渡代金、離婚慰謝料及び過去の生活費の未払分の合計金四〇〇〇万円を離婚時に内金二〇〇〇万円、三年以内に残金二〇〇〇万円を三回の分割で支払い、かつ離婚後の生活費として被控訴人に対しその終生一か月二〇万円宛支払う旨の和解案を提示したが、被控訴人がこれを拒否したため、和解は成立しなかった。」を加え、同七行目中「原告」を「原審及び当審における控訴人及び被控訴人の各」に改める。

5  同九枚目裏一行目中「その後は」を「昭和四五年ころから」に、同六行目中「右」を「東京都内の」に改める。

6  同一〇枚目表四行目中「三」の次を以下のとおり改める。

「次に、控訴人の民法七七〇条一項五号所定の事由(婚姻を継続し難い重大な事由)による離婚請求について判断すると、前認定のとおり、控訴人と被控訴人とは、その合意によって別居生活を始めたとはいえ、その別居期間は、被控訴人が東京都内のマンションに居住するようになった昭和四一年から通算すると約二二年の長きに及び、その間控訴人は昭和五五年春ころから乙野良子と同棲して翌昭和五六年四月には同女との間に一女を儲け、現在良子との間に内縁関係を形成してるのであって、控訴人が被控訴人を妻として受け入れる意思は全くないし、また被控訴人が控訴人の許に復帰しうる生活環境でもないというべきである。そして、このような状態が既に約八年間続いているのであるから、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、もはや夫婦としての実体を欠き、その回復の見込みが全くない破綻状態に至っているものというべきであり、本件においては、民法七七〇条一項五号所定の婚姻生活を継続し難い重大な事由があるということができる。

そして、右婚姻破綻の原因についてみると、控訴人と被控訴人の婚姻は別居状態が長引くにつれ形骸化していったものではあるが、破綻を決定的にしたものは控訴人が乙野良子と同棲生活を始めこれを継続したことにあるというべきであるから、婚姻破綻の責任は主として控訴人にあるといわなければならない。したがって、控訴人は、右婚姻破綻についての有責配偶者である。

ところで、有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間の対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六号一四二三頁)。

これを本件についてみると、控訴人と被控訴人との別居期間は、前記のとおり昭和四一年から通算すると約二二年に及び、同居期間(約八年)や双方の年齢(控訴人が六〇歳、被控訴人が五八歳)と対比すれば、相当の長期間であり、しかも、両者の間には子がない。

そこで、前記特段の事情の存否について検討すると、前認定の事実によれば、被控訴人は現在も甲状腺腫瘤の治療を受けており、控訴人を頼りにし控訴人との婚姻の継続を望んでいるが、本件訴訟の審理及びこれに先立つ離婚調停を通して控訴人の離婚意思の固いことを認識していること、被控訴人は資産として都内三田のマンション、軽井沢の原野、八丈島の山林及び甲野医院の建物と敷地の持分二分の一を所有し、控訴人から医師会団体生命保険、明治生命、朝日生命その他の生命保険の保険金受取人を被控訴人とした保険証券の交付を受けていること、控訴人は、被控訴人に対し一時期を除いて生活費を送金してきており、今後も引続き一か月二〇万円宛送金する意向であること、控訴人は被控訴人に対する離婚給付として甲野医院の建物と敷地についての被控訴人の持分二分の一の譲渡代金、離婚慰謝料及び過去の未払生活費の合計金として金四〇〇〇万円を支払い、かつ離婚後の生活費として被控訴人の終生一か月二〇万円を支払う旨提示し、離婚に伴う相応の財産的手当を考えていること、被控訴人は控訴人と別居後東京都内において単身生活を続けてきており、現在は自己所有のマンションに居住し、控訴人より将来とも生活費の援助を継続して受けることができれば、控訴人と離婚しても生活自体にはさしたる変化を来さないことが認められ、被控訴人が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が存するとは認められないから、控訴人の離婚請求は有責配偶者からの請求ではあっても、これを認容すべきである。

次に、控訴人は、被控訴人が控訴人を悪意で遺棄し、あるいは婚姻破綻の原因を作ったことによって重大な精神的損害を被ったとして、被控訴人に対し慰謝料の支払いを求めるけれども、前認定のとおり、被控訴人が控訴人を悪意で遺棄したことは認められず、また婚姻破綻についての有責配偶者は控訴人であって被控訴人ではないから、いずれにしても控訴人の被控訴人に対する慰謝料請求は理由がない。

二  したがって、原判決中控訴人の離婚請求を棄却した部分は取消しを免れず、本件控訴のうちその取消しを求める部分は理由があるが、控訴人の慰謝料請求を棄却した部分は相当であって、本件控訴のうちその取消しを求める部分は理由がない。

よって、原判決中控訴人の離婚請求を棄却した部分を取り消し、控訴人の右請求を認容し、控訴人のその余の控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松岡 登 裁判官 牧山市治 裁判官 小野 剛)

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